Tea-break・・・矢部院長からのちょっといい話
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○ 2021年12月 来年のスギ・ヒノキ花粉飛散予測数第1報と嗅覚障害についての補足
いよいよことしも最後の月となりました。でも「あれもやっていない、これもやらなくちゃ」といろいろ考えると忙しくなってしまします。優先順位をつけて、大切なことから手をつけましょう。皆様、師走のお忙しいこの時期にこのコラムを読んでいただいてありがとうございます。
今回は(1)来年のスギ・ヒノキ花粉飛散予測数(2021年9月20日現在)の第1報となるものと(2)前回の嗅覚障害についての補足です。
(1)来年のスギ・ヒノキ花粉飛散予測数(2021年9月20日現在)
来年のスギ・ヒノキ花粉飛散予測というものがNPO花粉情報協会から出されました。花粉飛散予測計算式というものがあり、ことし2021年の夏の気象データから花粉飛散数を予測するというものです。6〜8月のデータを過去28年間のデータと比べて算出します。その時役に立つのは
1)最高気温
2)日射量
3)最高気温年時差(前年との差)
4)日射量年時差(前年との差)
の4つです。
要するに気温と日射量なんですね、たとえば雨が多いと日射量が減ります。これで東京(千代田区)をみてみますと、2022年は5,747個という予測数がでてきます。これを2021年の実測値3,633個と比べますと、2022年は2021年より高く、約1.6倍です。つまり2022年春のスギ・ヒノキ花粉症は2021年春より残念ながらつらいだろうということが予測できます。2022年花粉飛散予測は東北から関東、北陸、東海にかけては前年の1.5〜3倍となります。また、過去10年の平均値(10年平均と呼ばれ、いわゆる「例年並み」といわれます)との比較では近畿から西の地方まではほぼ例年並み、東北、関東、北陸、東海にかけては1.1倍〜1.7倍になりそうです。来年のスギ・ヒノキ花粉症は心して準備しましょう。
また、追加です。鼻アレルギー診療ガイドライン2020年版によると、スギの開花時期は皆様よく御存知のように春、正確には1月〜5月ですが、ほんのわずかですが10月〜12月にも飛散するスギ花粉があります。秋は秋の花粉症(ブタクサ・ヨモギ等)、ダニ・ハウスダストなど他にもアレルギー性鼻炎の原因になるものも多いですが、そのひとつにスギ花粉も加えておいて下さい。(ちなみにヒノキ花粉は春のみで秋には飛びません。)
(2)嗅覚について
嗅覚というものは、においのもとになるものも見えませんし、どのくらいにおっているかを(もちろんオルファクトメトリーなどのにおいの程度を測定する機械もありますが、これはかなり大きい病院でないとありません。)可視化することもむずかしいものです。視覚や聴覚のように小数点以下まで数字が出てくる知覚とは違います。 そのためなのかにおいを表す時は〜の様なとかぼんやりした表現が多くなります。赤い花とか高い音とかはっきりした表現はできません。
源氏物語にも薫とか勾宮とか素敵なにおうような名前の貴公子が出てきますが、どんなにおいがしたのだろうかと思わず想像してしまいます。
このにおいの経路については前回お話したように嗅細胞→嗅球→大脳という順で伝達します。しかし、ちょっと細かい、マニアックなお話になりますが、においには2種類のにおいがあります。A.S.バーウィッチという認知科学者の「においが心を動かす」(2021年7月30日発行 河出書房新社)という本の中で
1)オルソネーザル経路
2)レトロネーザル経路
という2つのにおいの経路があげられています。 これはにおいの分子が嗅細胞に届く道すじで分類しています。
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オルソネーザル経路は鼻の孔から息を吸うときに感じます。嗅覚というとふつうはこのことをいいます。
- レトロネーザル経路は揮発性の分子が、のどの奥から鼻の嗅細胞に到達するというものです。これは風味に関係します。レトロネーザル嗅覚をもっているのはヒトだけなのだそうです。
風味は味覚と三叉神経の刺激と嗅覚刺激で形づくられます。この嗅覚刺激がレトロネーザル(後鼻腔性)のにおいを指すそうです。たしかに、くんくんとにおうだけでは風味はわかりませんね。口の中にいれてはじめてわかります。
ヒトはレトロネーザル経路に慣れてしまって特に食事の時に風味を感じるのはオルソネーザル経路と思っているのでしょう。
このようににおいというものはまだまだ知られていないことがたくさんあって興味深いものです。皆さんも、コーヒーを飲むときは「今の良いにおいはオルソネーザル経路だ。」「あ、このにおい、味はレトロネーザル経路だ。」と考えながら飲むとおもしろいかもしれません。(リラックスできないかもしれませんが)
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